「税務調査」と聞くと、思わず身構えてしまい、調査官に対して必要以上に警戒してしまう方もいるかもしれません。中には、緊張のあまり余計な発言や不自然な対応をしてしまわないか、不安を抱える事業者もいるでしょう。
確かに税務調査は、税務署の職員が直接事業所を訪れて行う正式な調査です。しかし、それだけで不正を疑われているわけではありません。調査をスムーズに終えるためには、事前の準備と適切な対応が重要です。
本記事では、税務調査を受ける前に押さえておきたい基本的な流れや準備事項、そして調査官に対して避けるべき「NG対応」について詳しく解説します。税務調査に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも税務調査とは?基本的な流れや調査官がチェックポイントを押さえよう
税務調査とは、納税者が行った申告内容が正確かどうかを、税務署が確認する調査です。
売上や経費、各種控除などが税法に則って処理されているかを、帳簿書類や証憑類を通じて検証します。脱税を摘発するだけでなく、適正申告の促進と税負担の公平性を保つ役割を担っています。
ここでは、税務調査の種類や、税務官がチェックするポイント、および税務調査の流れについて紹介しましょう。
税務調査の種類(任意調査・強制調査)
税務調査は大きく分けて「任意調査」と「強制調査(犯則調査)」の2種類です。
任意調査は、一般の企業や個人事業主に対して、税務署が事前に日時や対象期間を通知する任意調査が行われます。一般的に言われている税務調査は、任意調査をさします。
任意調査という名前ですが、拒否したり証憑類を見せなかったりすると、罰則が定められているので、調査の通知があれば受けなければなりません。
強制調査は、裁判所の令状に基づいて、国税局査察部が事前連絡なく行うものです。強制調査は強制力があるため、拒否できません。主に脱税の疑いのある場合に実施されるのが一般的です。
納税に関する書類を徹底的に調査し、脱税が発覚した場合、刑事事件として取り扱われ、逮捕される恐れがあります。
調査官がチェックする主なポイントとは?
調査官が特に注目するのは「申告内容と実態の一致」です。売上の計上もれや架空経費の計上は重点的に調べられ、預金通帳や現金出納帳、請求書といった資料の整合性が確認されます。特に交際費や福利厚生費、役員報酬の妥当性は厳しく見られ、事業実態と異なる支出には指摘が入ります。また、仮払金や未収金の回収状況も注目され、資金の動きに不自然さがないかも重要なポイントです。
税務調査の流れについて
税務調査の流れは、以下のような流れが一般的です。
- 税務署からの事前通知の連絡がある
- 事前準備を行う
- 税務調査を受ける
- 税務署から指摘事項があれば対応する
税務署が、税務調査を行う場合、通常対象事業所に対し通知を行います。日程や場所、調査対象の税目および期間調査の目的などが連絡内容です。事業者は、日程や場所について税務署に回答しなければなりません。
通知を受けた事業者は、通知内容に従って必要書類を準備します。
税務調査当日は、通知に回答した場所で調査が行われ、通知調査官による質問事項に回答するのが一般的な流れです。
調査官は、税務調査での結果を税務署に持ち帰り、精査します。精査後、修正申告など指摘事項があれば通知され、事業者は対応しなければなりません。
税務調査前にやっておくべき準備事項
税務調査の日程が決まると、事業者は調査がスムーズに行われるよう準備しなければなりません。
準備事項として、「必要書類の準備」「指摘されやすいポイントのチェック」があるので、それぞれ解説します。
必要書類の準備
当然のことではありますが、税務調査を受けるにあたり、必要書類の準備は必須です。
税務調査で提出や提示が求められることが予想される書類として、以下のものがあります。
- 総勘定元帳(帳簿)
- 納品書
- 領収書の控え
- 請求書
- 給与支払い帳簿(一人別徴収簿)
- 契約書
- 議事録
税務調査の通知時に、どれくらいの期間を調査するのかは、事前連絡に告知されるので、告知期間分を準備しましょう。ちなみに、税務調査の多くは3年が一般的です
指摘されやすいポイントのチェック
税務調査における、指摘されやすい主なポイントは以下の通りです。
- 売上の計上もれおよび期ズレ
- 経費の過大計上
- 在庫の過少計上
売上計上において、現金売上や帳簿外取引の隠蔽は、指摘されやすい点のひとつです。
特に現金商売では、レジ記録や売上伝票と帳簿の突合で不一致が発見されやすく、意図的な隠蔽とみなされることもあります。
また、期ズレも指摘されやすい項目です。意図的にずらすことで、税負担を軽くしようと疑われるケースがあります。
経費の過大計上もまた、税務調査のチェックポイントといえます。
実際には、業務と関係のない私的な支出を経費として処理しているケースも指摘されやすいです。特に接待交際費や広告費などは、領収書の有無だけでなく、業務との関連性について問われることが多いです。
在庫を過少計上することで、売上原価が実際よりも多くなるため、利益が圧縮できます。そのため棚卸資産の評価は、税務署がチェックしやすいポイントとなります。数量・単価の妥当性も調査されるため、仕入関連書類と帳簿との整合性が取れているのかチェックしましょう。
税務調査時にやってはいけないポイント3選
税務調査が入ると、不安に思うことがあるかもしれません。
思わぬ言動が、税務官の心証をすることがあるので注意しましょう。
ここでは、税務調査が入ったときにやってはいけないことについて解説します。
うそやあいまいな返答をする
税務調査では、調査官の質問に対して、うそや「多分そうだったと思います」「よく覚えていません」などあいまいな返答をするのはNGなので注意しましょう。
うそやあいまいな返答をすると、申告内容への信頼性が一気に低下します。
調査官は帳簿や証憑に基づいた事実関係を確認するために質問しているため、答えに一貫性がないと「故意の隠蔽ではないか」との疑念を招きかねません。
対応に迷った際は、「確認のうえ、後ほど回答させていただきます」と誠実な姿勢を取るように心がけましょう。
感情的に反論する
税務調査における態度は、その後の調査の方向性に大きく影響します。「見ればわかるだろう」や「どうしてそんな細かいところまで聞くのか」など、感情的に反論をしたり、不満げな態度を見せたりすると、調査官との信頼関係が損なわれます。調査がより厳密かつ長期化する恐れがあるので注意が必要です。
調査官は法律に基づき、淡々と職務を遂行しているにすぎません。相手を敵視せず、冷静かつ丁寧な応対を心がけることで、余計な誤解や対立が防げます。
書類の提出を拒む
提出する書類には、第三者に見られたくないものがあるかもしれません。そのため、税務官の依頼に対し拒む気持ちも理解できます。しかし、書類の提出を拒む行為は、税務官に対する印象が悪くなるので慎まなければなりません。
税務官には守秘義務があります。業務において知り得た情報は、決して外部にもれません。
税務官の依頼には素直に従いましょう。
税務調査を問題なくクリアする対処法
税務調査を問題なくクリアするにはどのような点に注意すればいいのでしょうか。
以下では、ポイントを3点あげていますので、順を追って解説します。
- 現金出納帳などの帳簿書類を日頃から意識する
- 指摘事項には冷静に対応し、必要に応じて修正申告も行う
- 信頼できる税理士と顧問契約を結ぶ
帳簿作成を日頃から意識する
税務調査をスムーズに乗り切るためには、日々の帳簿作成を単なる作業とせず、「証拠としての正確性」を意識して記録する姿勢が不可欠です。
仕訳帳や総勘定元帳はもちろん、取引の裏付けとなる請求書・領収書・通帳明細なども、すぐに確認できる状態で保管しておくことが求められます。さらに、月次ごとの突合や定期的な内部チェックを習慣化すれば、小さなミスを早期に発見でき、大きな修正リスクを回避できます。
指摘事項には冷静に対応し、必要に応じて修正申告も行う
税務調査に入られ、税務官に指摘を受けた場合、感情的な反応を避け、事実と向き合う姿勢を持つことは大切です。
たとえ経費の否認や売上の過少計上といった指摘であっても、無理に主張を押し通さず、帳簿や証憑を再確認しましょう。必要に応じて速やかに修正申告を行えば、加算税の軽減や調査官の心証改善にもつながります。税務調査は対立の場ではなく、納税者の真摯な姿勢が問われる場であることを意識しましょう。
信頼できる税理士と顧問契約を結ぶ
事業者自身が税務担当者と対峙するには、税務に関する知識がないと対応できません。
事業者にとって不利な指摘を受けるかもしれません。税理士と顧問契約を結ぶことで、税務調査に立ち会いを依頼できます。
税務調査に立ち会ってもらえることで、事業者の負担が軽減でき、円滑な調査が期待できるでしょう。
税理士が税務調査に立ち会いを依頼するメリット
税理士と顧問契約を結ぶことで、税務調査に立ち会ってもらうことが可能です。
では、税務調査に立ち会いを依頼することで、事業者はどのようなメリットが得られるのでしょうか。
得られるメリットとして、次の3点があるので、それぞれ紹介します。
- 事前準備に不足がないかチェックできる
- 税務調査に問題がないか監視してもらえる
- 修正事項にスムーズな対応が期待できる
事前準備に不足がないかチェックできる
税務調査に備えるうえで、税理士に立ち会いを依頼する最大のメリットの一つが、事前準備の抜けもれを専門的に点検してもらえることです。
帳簿の記載内容や証憑との整合性、仮払金・未収金・経費処理など、調査で特に指摘されやすいポイントを事前に洗い出し、修正の余地があれば適切に対応できます。税務調査で重視されるチェック項目を熟知している税理士の目を通すことで、安心感と調査リスクの軽減が得られます。
税務調査に問題がないか監視してもらえる
税理士が立ち会うことで、税務調査の進行に対して、専門家として監視してもらえる点も大きなメリットです。
事業者自身が気づかない不当な質問や過度な調査範囲の拡大があった場合でも、税理士がその場で適切に対応してくれます。また、調査官との専門的なやりとりもスムーズになり、説明のブレや誤解を防げるため、調査の公平性を担保する役割も期待できます。
修正事項にスムーズな対応が期待できる
税務調査において、万が一申告ミスや処理の誤りが見つかった場合でも、適切な修正申告に対応できるメリットがあります。
加算税や延滞税の軽減措置に関する助言も得られるため、納税者の負担を最小限に抑えることが可能です。
また、税理士が調査後の対応まで一貫してサポートしてくれることで、精神的な負担も大きく軽減されます。
まとめ
税務調査は、納税者の申告内容に誤りがないかを確認するために行われるもので、任意調査と強制調査の2種類があります。
調査官は、帳簿や領収書、契約書などにより、申告内容の正確性をチェックします。調査前には必要書類を整え、指摘されそうなポイントをチェックしておきましょう。
調査時には、うそやあいまいな返答、感情的な態度、書類提出の拒否などはNGです。帳簿は日頃から丁寧に作成し、指摘があれば冷静に対応し、必要に応じて修正申告を行いましょう。
また、信頼できる税理士と顧問契約を結んでおけば、事前の準備や調査時の立ち会い、修正対応まで安心して任せられます。
税務調査を円滑に進めるためにも、正しい知識と冷静な対応を心がけましょう。