法人設立を考える場合、思い立ったが吉日とばかりに、行動に移すのは得策ではありません。法人設立のタイミングによっては、節税効果が得られるので、一旦熟考するのが賢明ではないでしょうか。
本記事では、法人設立を検討するのにあたり、個人事業主が注意すべき点について解説します。法人設立を考える目安や、法人設立のメリット・デメリットについて紹介しますので、法人設立を近い将来考えている事業者は最後までお読みください。
個人事業主と法人の3つの違いとは?
事業を運営することは共通であっても、個人事業主と法人とでは次の3つの違いがあります。
- 経費の違い
- 課税される税金の違い
- 設立の流れや費用の違い
順を追って解説します。
経費の違い
経費は、事業を運営する際に必要な費用です。所得から控除できる点は、個人事業主・法人共に共通です。しかし、費用の一部において、個人事業主、法人とで異なった処理方法を行います。経営者の給与が代表例です。
個人事業主の場合、総所得から必要経費を控除したものが個人事業主の課税所得とされます。法人の場合は、法人と個人は別人格として判断するため、経営者の給与は「役員報酬」という勘定科目を使って「販売費および一般管理費(販管費)」として処理されます。
課される税金の違い
課される税金の種類も個人事業主と法人とでは違います。事業運営して得た所得は、個人事業主の場合、所得税が課されます。
一方、法人の場合は、法人税です。また、「所得税」「法人税」とでは、税率が異なります。個人事業主の場合、課税所得金額が増えるほど、税率も上がる累進課税制度を導入しています。ある一定以上の所得が個人事業主にある場合、法人設立することにより節税効果が可能です。詳細については後で詳しく解説します。
設立の流れや費用の違い
個人事業主は、開業するにあたって、所轄の税務署に「開業届」を提出することで、手続きは完了します。特段費用はかかりません。
法人の場合、設立に際して定款を作成し、公証人役場に行って認証を受けなければなりません。認証後、法務局で法人設立の登記が必要です。
定款作成や法人登記には費用と時間がかかります。通常定款認証手数料は、資本金額により3万円~5万円かかり、他にも謄本の請求手数料や収入印紙代が必要です。
法人登記には、登録免許税として、株式会社の場合15万円、合同会社では6万円かかります。司法書士に依頼する場合には、別途報酬が必要です。
手続きには、1週間から10日ほどかかると考えておくのがいいでしょう。
法人を設立するメリット5つ
個人事業主が法人を設立するメリットとして、次の5点が考えられるので、それぞれ解説します。
- 税制面で有利となる
- 決算月を任意で決められる
- 赤字(欠損金)の10年間繰越欠損が可能
- 社会的信用度が増す
- 有限責任となる
税制面で有利となる
個人事業主と法人とでは、課税の仕組みが異なるため、一定の金額を超えると法人のほうが個人事業主の税率より低くなり有利になることがあります。個人事業主の税率は、前に述べた累進課税方式であるためです。
一方、法人が納める法人税率は、資本金1億円の場合、800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%です。
個人事業主の課税所得金額が増えるほど、法人化による節税効果は大きいといえるでしょう。
決算月を任意で決められる
事業年度の決算月を任意で決められる点も法人設立のメリットです。個人事業主の場合、事業年度が1月~12月末と決められています。法人の場合、自由に設定できるため、決算月を繁忙期からずらすことで、落ち着いて決算作業を行うことが可能です。つまり、業務サイクルにあわせた決算月の設定が、法人では可能となります。
赤字(欠損金)の10年間繰越欠損が可能
青色申告を行っている個人事業主の場合、欠損金を翌年に繰り越しできますが、欠損金の繰越期間は3年間です。
法人の場合、10年間の欠損金の繰越が認められています。
ある事業年度に大幅な赤字を計上した場合、次の事業年度から10年間、節税効果の恩恵を受けることが法人では可能です。
社会的信用度が増す
法人化することで社会的信用度が増す点もメリットの一つです。個人事業主より法人のほうが、信用度が高いとされるのが一般的です。理由として、法人は会社法等に厳格に運営され、登記により情報公開されているため、誰でも確認でき信頼性が高くなります。
個人事業主の場合、事業主本人が亡くなれば取引が消滅します。法人の場合、代表者が亡くなって場合でも、継続企業体が原則であるため、継続した取引ができます。
有限責任となる
個人事業主は、事業に失敗した場合、すべての責任を経営者本人が負います。このことを無限責任といいます。
法人の場合、有限責任となり、すべての責任を負う必要がない点もメリットとして考えられるでしょう。具体的には、法人が倒産した場合、有限責任であるため、出資した範囲内での責任となるため再スタートが切りやすい効果があります。
法人を設立するデメリットはこの4つ
では、法人設立をすることで起こり得るデメリットとは、以下の4点ですので、それぞれ解説します。
- 登記費用が必要
- 社会保険の加入が必要
- 赤字でも税金の支払いが必須
- 会計や事務処理の増加
登記費用が必要
法人設立する場合、法務局で法人登記を行う必要があります。加えて、法人設立には費用がかかる点もデメリットとしてあります。
法人登記の前には、定款を作成しなければなりません。公証人役場で承認してもらう必要があり、ここでも費用が発生します。
社会保険の加入が必要
法人を設立すると、社会保険や厚生年金といった社会保険に加入しなければなりません。
また、法人は社会保険料を半分負担する必要があります。
後述の税金同様、赤字決算であっても法人は社会保険料の負担は必須なので、費用面で重荷となる恐れがあります。
赤字でも税金の支払いが必須
個人事業主であれば、赤字の場合、基本的に税金を納めることはありません。しかし、法人の場合、赤字であっても、法人住民税の納付は必須である点に注意しなければなりません。
法人住民税は、住民税割と均等割の2つにわかれています。住民税割の場合、法人税額をベースに決定します。法人税額が0円の場合、住民税割は0円です。
しかし、均等割は、資本金や従業員数によって納める金額が決まっているため、赤字であっても納税の義務が発生する点に注意が必要です。
会計や事務処理の増加
法人設立すれば、個人事業主と比べ決算書類や保険関連書類といった提出書類が増え、手間がかかる点もデメリットといえます。
従業員がいない、一人社長である場合、代表者が一人で書類の作成・提出を行わなければなりません。決算書類や確定申告書類の作成には専門的な知識が必要です。
専門家に依頼することで、書類作成業務から解放され、代表者は事業に集中しやすくなるでしょう。
個人事業主が法人を設立する目安
個人事業主が法人化を検討する場合、事業主はどのような点を目安にすればいいのでしょうか。主な目安として、以下の3点があるので、それぞれ紹介します。
- 事業の拡大を検討しているとき
- 売上高が1,000万円超となったとき
- 個人事業の所得が800万円超となったとき
事業の拡大を検討しているとき
新規事業を立ち上げたり、既存事業を拡大したりする場合も、法人化の目安となります。新規事業の立ち上げや拡大には、優秀な人材を確保することが必要です。前述の通り、個人事業主と比較し、法人設立により対外的に信用力が増すため、個人事業主であるより法人設立したほうが優秀な人材を確保しやすいメリットがあります。
また、事業の拡大には、資金調達が欠かせません。法人設立により、金融機関より多額の資金が調達しやすくなるので、安定した資金繰りが見込まれるでしょう。
売上高が1,000万円超となったとき
消費税に関して、個人事業主の売上が1,000万円を超えた場合、2年後に納税義務が発生します。
消費税の納税義務が発生する年に法人設立をすると、法人設立した年が開業1年目となり、2年前には売上は当然に発生していないため、消費税の納税は不要です。
個人事業主と法人とは別人格であるので、切り離して考えます。
この仕組みを利用すれば、2年後から発生する消費税の納税の回避が可能となります。
ただし、設立した法人の資本金が1,000万円未満で、かつ以下の条件をクリアする必要があるので注意しましょう。
法人設立1年目
資本金が1,000万円未満 法人設立2年目 資本金が1,000万円未満 以下の1.2のいずれかの条件を満たしていること (1)事業開始後1期目の前半6ヶ月における課税売上高が1,000万円以下 (2)事業開始後1期目の前半6ヶ月における給与等の支払総額が1,000万円以下 |
個人事業の所得が800万円超となったとき
法人設立の目安として、個人事業の所得が800万円を超えた時点も考えられます。納税金額を抑えることが可能であるのが理由です。
個人事業主は、課税所得金額が増えると、所得税率も上がっていく累進課税制度を採用しています。
一方、法人税には、累進課税制度を採用していません。法人税は、所得に対する税率が決まっています。
個人事業主に課される所得税の税率、および法人に課される法人税率は以下の通りです。
【個人事業主に課される所得税の税率】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
(参考:国税庁|No.2260 所得税の税率)
【法人税の税率(資本金1億円以下)】
課税される所得金額 | 税率 |
年間800万円以下の部分 | 15% |
年間800万円超の部分 | 23.2% |
(参考:国税庁|No.5759 法人税の税率)
例えば、個人事業主の課税所得金額、法人課税所得金額がそれぞれ800万円の場合、以下のようになります。
個人事業主・法人別 | 税額 |
個人事業主 | 8,000,000円×23%‐636,000円=1,204,000円(所得税額) |
法人 | 8,000,000円×15%=1,200,000円(法人税額) |
法人税額のほうが、所得税額より低く抑えられていることがわかるでしょう。
まとめ
法人設立をすることは、個人事業主と異なり信用力が増したり、税制面で優遇されたりする等といったメリットがあります。
反面、法人設立には費用がかかり、赤字となっても税金を納める必要がある点には注意しなければなりません。
法人化する目安として、売上高が1,000万円を超えた時期や、個人事業主としての課税所得が800万円を超えたとき等があります。
本記事が、法人設立のヒントになれば幸いです。